犬のトレーニングに関する用語や道具、動物行動学に関する用語をまとめた「犬の百科事典」です。専門学校などで愛玩動物看護師むけに講義を行ったり、教科書を執筆している講師が学術的な定義を基に、客観的かつ端的にまとめてありますのでご活用下さい。
ターゲットトレーニング
目標物を用いたトレーニング手法の1つ。ターゲットは、動物種や教える
行動に応じて、人の手や棒、ペットボトルのキャップなど様々。犬の場合、主に鼻先をターゲットにつけることをトレーニングし、この行動を利用して他の行動を
身体的誘導法により
反応形成する。つまり、ターゲットは視覚的な
プロンプトとして働くことになる。
タイムアウト
好ましくない
行動を減少させる
行動修正のひとつ。
負の罰を用いたトレーニング方法。例えば、人の手に歯をあてることを止めさせたい場合、引っ張りっこの遊びが報酬となる犬において、遊んでいるときに手に歯が当たったら遊びを止めてしまう。数十秒間経過したのちに遊びを再開し、手に歯が当たったら再度遊びを止めるを繰り返す。犬は歯が人の手に当たると遊びが出来なくなるため歯をあてる行動は減少していく。
対立行動分化強化(たいりつこうどうぶんかきょうか)
同時に成立することがない反応に対して、
強化子を与える
分化強化のこと。例えば、飛び跳ねる犬がいた場合、犬がお座りをしたタイミングに報酬を与える。これを繰り返すことで、その場面では、飛び跳ねる反応が減り、座るようになっていく。非両立行動分化強化と記載されてる専門書もある。
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脱制止(だつせいし)
連合された刺激と反応の消去過程において、連合された刺激以外の新奇刺激を与えると一時的に反応が生じる現象。
脱制止の他にも刺激と反応の連合が弱まることで生じる現象に
自発的回復がある。
脱馴化(だつじゅんか)
特定の刺激に
馴化が生じても、他の刺激が同時に提示されたことによって、再び特定の刺激に反応が生じるようになることを脱馴化という。犬に怖がる音を慣らす練習をしている際に、徐々に慣れてきたところで他の音が聞こえてくると、せっかく慣れた音に再び恐怖反応を示すことがある。そのため、馴化の練習をする際には、なるべく静かで刺激の少ない場所で練習する必要がある。
探索行動(たんさくこうどう)
動物が見知らぬ環境やものに遭遇した際、それがどんな環境でどんなものなのかを確認するために表す
行動。犬の場合、匂いを嗅ぐ、聞き耳を立てる、じっと見つめる、噛む、舐めるといった行動が見られる。特に子犬の頃は、初めて見たものを噛んで確認する。
探査行動(たんさこうどう)
犬や人、その他の動物がどのような個体か確認する
行動。初めて出会う犬同士は、まず耳や鼻の匂いを嗅ぎ合う。さらに挨拶が発展すると、お互いの陰部や肛門の匂いを嗅ぎあいながらぐるぐると回り始める。陰部や肛門の匂いはそれぞれの犬によって異なるため、匂いを嗅ぐことで相手の犬がどのような犬なのか知ることができる。
逐次接近法(ちくじせっきんほう)
分化強化と反応
般化、さらに
消去(オペラント条件付けにおける)を繰り返し、段階的に個体の新しい反応を形成する手法。主に、複雑な
行動を
学習させる場合に用いる。ただし、単純な行動でもいくつかのステップに分け、段階的な
強化(オペラント条件付けにおける)を行うことで、逐次接近法になる。例えば、犬に座るといった単純な行動を教える際でも、犬が立った姿勢で尻尾を振っている状態から、尻尾の動きが止まった時に
強化子を与え、次に尻尾が下がった時に強化子を与え、次は少し腰が下がった時に与え、最後に腰が地面に着いた時に強化子を与えるトレーニングを行った場合、逐次接近法となる。
中性刺激(ちゅうせいしげき)
動物にとって生まれながらに持つ反応(
無条件反応)を生じさせない刺激のこと。
チョークチェーン
犬のトレーニング用の首輪の一つで、金属製のチェーンで作られており、リードに繋げて使用する。リードを引くとチェーンが犬の首を締める構造をしており、望まない反応をしたときにリードを引いて一瞬締めることで痛みを与え
罰子として用いることで反応を減少させる道具。
普段は緩めた状態を維持することで首を締めないように使うが、リードを引っ張る習慣がある犬に使用するとただ首を絞めるだけの道具になるので、使い方を間違えると頚椎を痛めたり、窒息状態になり使い方が難しいため専門家の指導が必要である。鎖タイプのものは鎖が擦れる音と首が締まる
嫌悪刺激が結びつき
二次性罰子として用いることも可能で、鎖タイプのハーフチョークカラーなどに応用し首を締め切らずに反応を減少させることも出来る。
直接罰(ちょくせつばつ)
動物が不快感情を抱くような、叩く、首を掴む、怒鳴るなど
嫌悪刺激を直接的に与える
罰のこと。過度な嫌悪刺激を与えることで
鋭敏化が起こりやすく、罰を与える人の手や足や道具などに恐怖反応を引き起こすこともあり、恐怖に起因する問題行動であればさらに悪化させる可能性がある。
敵対行動(てきたいこうどう)
動物の
行動において、社会維持行動に分類される、他個体に対し敵意を示す行動のこと。
威嚇行動(犬の場合うなるなど)、
攻撃行動(噛みつくなど)、服従行動(お腹を出すなど)、逃避行動(逃げる)が含まれる。
転位行動(てんいこうどう)
葛藤行動の中の一つ。その場の状況に適応するための
行動とは関係のない行動を言う。状況にふさわしい正常な行動が阻害され、動物が葛藤・欲求不満状態のときに示すことが多い。代表的な例として、かく、舐める、身震いなどの
身繕い行動や、あくび、摂食、睡眠などが挙げられる。これらの行動は、葛藤状態にはない正常な場合でも発現されるものなので、
維持行動との区別が困難な場合が多い。犬の場合、未知な場所、あるいは未知の人との対面において、あくびをしたり身繕いしたりする様子はよく観察される。
転嫁行動(てんかこうどう)
葛藤行動の中の一つ。本来向ける
行動の対象とは、対象が異なる場合が転嫁行動である。本来の対象に行動が示せないような葛藤や欲求不満の状態で示すことが多い。前後関係と全く関係のない
転位行動とは異なり、妨げられた行動や欲求不満による行動が別の対象に向けられる。
転嫁性攻撃行動(てんかせいこうげきこうどう)
葛藤行動の一つである
転嫁行動のうち、攻撃が示されるものを言う。本来の対象ではない相手に向けられる
攻撃行動で、実際の攻撃対象に近づけないとき、そばにいる無関係な人・動物・ものに対して行われる。いわゆる“八つ当たり”である。ネコで多く、犬では稀と言われている。問題となる典型的な例として、他の犬に対する攻撃性がある犬が、散歩中、他の犬とすれ違いざまに飼い主の足に対して咬みつくというケースがある。(犬では柴犬で見られることが多い)
トイレトレーニング
人からの合図や自発的に所定の場所に行き、排泄をするトレーニングのこと。日本では、トイレシートやトイレトレーの上で排泄をするようにトレーニングすることが多い。
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動機づけ(どうきづけ)
モチベーションのこと。動物が
行動を起こす際の原動力となるもので、環境刺激などの様々な条件や学習、発達によって程度が変化する。
動機づけの種類としては、個体の生存や種の存続のための生得的な動機づけや自身の好奇心や関心といった内発的な動機づけ、環境など外部からの動機づけがある。
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道具的条件付け(どうぐてきじょうけんづけ)
オペラント条件付けのこと。
同時条件付け(どうじじょうけんづけ)
条件刺激と
無条件刺激を同時に提示する方法を同時条件付けという。同時条件付けは
順行条件付けに比べ
条件反応が小さくなる。犬のトレーニングで褒め言葉の「いいこ」を教える際、同時条件付けを用いて
強化(古典的条件付けにおける)するときは、「いいこ」と声かけをするのと同時に食べ物を与える。
同種間攻撃行動(どうしゅかんこうげきこうどう)
序列や優位性に起因する
攻撃行動。一般的に同性間で見られる。過去、個体間に問題がなくとも、社会的成熟期(12~36か月齢)を迎えることにより、互いの関係性に変化が出ることで見られることもある。子犬期に犬同士の関わりを
学習していない犬の場合に見られることが多い。
疼痛性攻撃行動(とうつうせいこうげきこうどう)
体に痛みを感じることによって発現する
攻撃行動。怪我や病気によって痛みを感じた際や、注射などの診療の際も起こりやすい。また、子供がこのような犬の上に乗って攻撃行動に巻き込まれることもある。
特発性攻撃行動(とくはつせいこうげきこうどう)
原因不明で発現する
攻撃行動。脳炎やてんかんなど中枢神経に何らかの異常が疑われるものの、特定の原因は不明であり、遺伝的要因が強いと考えられている。イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル、イングリッシュ・コッカー・スパニエル、アメリカン・コッカー・スパニエル、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ドーベルマンなどの犬種に見られることが多いと言われているが、稀である。
ドッグダンス
音楽に合わせて犬と人が踊るドッグスポーツ。「ヒールワークトゥミュージック」と「フリースタイル」の2つの部門に分かれている。カナダやイギリスが発祥で、もともとは服従訓練を音楽に合わせて観客に披露するというものだったと言われている。
突発性攻撃行動(とっぱつせいこうげきこうどう)
威嚇などの前兆がなく突然出現する
攻撃行動。(突発性=突然発症すること)。
特発性攻撃行動(特発性=特別な原因がないのに発症すること)と混同することが多いので注意が必要である。
トレーニングディスク
円形の金属板が数枚ついているもので、イヌが望ましくない
行動を発現したときに投げたり、落としたりして音を鳴らして行動を減少させる
罰子として使用する道具。本来、
二次性罰子として使用するものであるが、いわゆる天罰方式の誤った使用方法が広まっている。金属音に敏感な個体にとっては
一次性罰子として恐怖反応を引き起こすので使用する際には注意が必要である。
執筆者:
鹿野正顕(学術博士)、
長谷川成志(学術博士)、
岡本雄太(学術博士)、
三井翔平(学術博士)、
鈴木拓真CPDTーKA